第一回 



園長 小林 直己

 「ミドナプールの狼少女」 を読んで。
「ミドナプール」についてご存知でしょうか?
インドのシング牧師の書かれた『狼に育てられた子』
(中野喜達・清水知子訳で福村出版社から発行)

1920年10月9日の夕方、狼に育てられた二人の女の子が捕まり、シング牧師の手によって育てられる。
 
年上の女の子をカラマと名づけ推定8歳ぐらい。
 
年下の女の子アラマ推定1歳半ぐらい。

すべてが
狼のしぐさで明かりを恐れ、暗闇を恐れず、臭覚が鋭く遠くから肉の臭いを嗅ぎつけて突進していって、皿に口をつけまるで犬のように飲み食いをする。
 立って歩く事も出来ず四つん這いでリスのように速く走ったり歩いている。耳もよく聞こえる。二人は喉が乾くと
「ブーブー」という音を出すが、人間の言葉は喋れない。
 冬の寒い日でも裸で平気で、いつも重なり合って眠る。
動物的な生活から人間的な生活が出来るように
忍耐強い努力が続けられた。


幸いな事に
一歳半と八歳という年齢は人間的な成長が出来なくなるという年齢的限界を越えてはいなかった。
 一歳半のアラマの方が
脳の発育がまだ進んでおらず、自分を取り巻く環境の変化を敏感に受け取った。しかし、カラマはアラマよりは柔軟性に欠け狼としての行動がよく身についていて、人間社会への復活に困難を来たした。

アラマは10か月たつ頃には他の赤ちゃんと同じように、ビスケットをもらうようになったが、不幸な事に一年も立たないうちに病気になって死亡してしまった。
カラマは数年後には二本足で歩くようになり、6年後には30ばかりの単語を喋れるようになる。15歳ぐらいになると人間らしさを見せはじめ、3〜4歳の幼児といえるほどになってきた。残念な事に9年目に尿毒症のため死亡。推定17歳。

この狼少女物語を読むと、
前半の文章の終わりは,『生後の早い時期に起こった脳の変化の重要性を示すもので、環境の大切さを教えられているように思います。』
人間は生まれつき人間ではなく
人間として育てられ、
(しつけ)られる事によって人間になるということがよく分かります。
生後の早い時期に起る脳の変化の重要性を示すもので、生まれた後の育つ環境の大切さを教えられているように思います。

近年、大脳生理学によって脳の機能が究明され、脳がどのような刺激を受けたかによって、
その人なりが分析されるようになってきました。
実際に、幼児たちとともに生活してみると、周囲の環境(教師も含む)から刺激を受けて、
それに順応しながら成長していくようすを顕著に見ることができます。
したがって、今日マスメディアの発達したなかで、
幼児たちは否応なしに多くの刺激を受けながら成長しています。
脳は刺激を受けることにより発達しますから、幼児たちを放っておいても伸びていくと思いますが、
果たして好ましい方へ伸びていくとは限りません。悪い方へ伸びていく可能性もあります。
幼児たちの生活の全領域は、すべて模倣生活を中心に成長しています。したがって、周囲の環境から
善悪美醜の区別なく鏡のようにプリントしていることを十分理解しながら、
幼児に関わっていかなければと強く感じています。

小林 直己

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